あっ この感じは覚えていたい

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羨望も絶望もほどほどに

11月23日(土)。

雨やめな〜。最寄駅に着いたらド派手に電車が遅れていた。今日はどこにも行けないのでは……と萎えたが、ちょうどもろもろ処理が済んで運転再開のタイミングだったらしく、結局ほとんど予定通りに目的地へ。

池袋の貸し会議室にて、山階基『風にあたる』批評会。

風にあたる

風にあたる

歌集の批評会への参加は初めての経験。会場が貸し会議室であることを当日、電車が赤羽を過ぎたあたりに初めて気付く。ステージがあって、そこで議論が繰り広げられて、我々は座席に座ってその様子を見守る、というようなものを想像していたが、整然と並べられた長机にはレジュメが置かれていて、参加者は歌集と筆記具を用意して着席する。学校みたい! こういう雰囲気なのか。何もかもが新鮮。

山階さんはぼくが度々参加している屋上での歌会を主宰されている方で、その場では「短歌の得意なやさしいお兄さん」という雰囲気なのだけど、短歌の世界では新進気鋭の若手作家、というような位置付けらしい。批評会は第1部が有名な歌人の方たちによるパネルディスカッション、第2部が参加者による一首評という構成だった。パネルディスカッションの最初の発表者・乾遥香さんが「山階基の歌についてはこれまで散々議論されていて、みなさんも知っていると思いますので…」というようなことをおっしゃっていたのが印象に残っている。それは山階さんがそういうポジションであることもそうだし、短歌の世界で批評がどのように扱われているのかを端的に示しているように思えたから。きちんと議論を共有し、みんなで前に進む、このジャンルを更新していく、というような気概を感じた。これは日本語をある程度使える必要がある、という(例えば音楽と比較した場合*1の)参入障壁の高さによるコミュニティーの小ささに関係しているのかな、とちょっと思ったが、まだ思いつきの域を出ないので深追いはしない。

議論の内容も、一人では到達しえなかった深い読みを知ることができておもしろかったのだけど、どうしても枠組みというか、仕組みというか、そういうものに目がいってしまう。

ディスカッションにおいてもうひとつ印象に残ったのは、ネットプリントの文章が引用されていたことだ。春に屋上の歌会に初めて参加したことをきっかけにツイッターで短歌をやっている方を積極的にフォローするようになって感じたのは、ネットプリントを媒介にした発表が盛んなことだった。

例えばイラストレーターがネットプリントの仕組みを使って何か発表するようなとき、それはよくも悪くもおまけやサービスのような位置付けで、本業とは全然ちがうものだと認識していた。それがどれだけ広まったところで作家が利益を得られるわけではなく、それゆえクオリティーも無料の範囲内なのだろう、と思っていた(あくまで自分は、という話)。

ぼくはこの考え方を一切の疑問を挟まず短歌の世界にも適用していて、ネットプリントで発表されたテクストは専門誌やブログなどで発表されるものより下だと思っていたから、ディスカッションの中で、雑誌などに掲載されたらしいキャリアのある歌人の評とネットプリントが等価に扱われていたとき、誰が言ったかではなく何を言ったかが重要である、という今や急速に失われつつある前提がしっかり存在していることに感動してしまった。書かれた言葉をこれだけ厳密に扱う世界がまだあるんだ! 今日に至るまで気付かなかった自分の視野の狭さはさておき、なんだかうれしくなった。一方で、そういう人たちにとっての現代の生きづらさを想うと勝手につらい気持ちにもなってしまうのだが……。まあそれは(言うまでもなく)各々どうにかやっていくしかないし、ぼくだって想像で気を病んでいる場合ではない。

第2部の一首評では、うっかり参加申し込みの際に「発言したい」にチェックを入れていて、かつ五十音順に指名するスタイルだったので結果的に2番目に発表することになってしまった。事前に好きな歌のピックアップはしていたものの、具体的にどの歌をどんな風に感じたかまで考えてはいなかったのでけっこうテンパった感はあったが、なんとかやれた。パスしてもいいルールだったのだけど、発表してよかったと思う。

他の人の一首評を聞いていて、「ずるい」とか「悔しい」といった言葉を使う人がいたことは少し気になった。第1部のパネルディスカッションで「歌集の批評なので、この場では歌会のように個別の歌の評価・解釈の披露などはしないほうがいいと思っている」とおっしゃっている方がいて、それだって別に統一的な見解ではないのかも知れないけど、ぼくにはそういう厳密さはとても魅力的にうつったから、反対に一首評で歌の感想以外の何かを話すのはあまりフェアではないように感じた。少なくとも嫉妬の感情は公の場で堂々と言うものではないように自分は思うが、まあ、それぞれの美学の問題か。そう感じたなら、匹敵する作品を生み出せるよう励む、以外にやることある? などと考えてしまうが、じゅうぶんやっているかも知れない。そもそも人と比べる必要があるのか、とも思うが、それもそれぞれの生き方だ。簡単に否定するべきでは、というかしていいものではない。全然知らない人の振る舞いにアツくなっても仕方がない。反省。だいじょうぶです。

この日、この批評会の場にいる人の中でいちばん短歌についての経験値が少ないのはたぶん自分だったと思うのだが、だからこそ、そのぶん一気にレベルが上がったような感覚があった。そういう環境・状況をあまり苦にしないタイプの人間だという自覚はあるが、人並みに気疲れはするので、浪江まき子さん(osicomagazine vol.2に短歌を寄せてくださっている!✌️)がとなりの席にいてくれたのは大変心強かったです。感謝……(直接言えという話ではある)。

批評会のあとの懇親会には参加しないことにしていた。おとなしく帰ってもよかったのだけど、神保町へ向かう。TRANS BOOKS 2019。

transbooks.center

会場への道中、神保町でなにかがあるとき、電車で素直に神保町駅を目指すのがいいのか、御茶ノ水駅でも事足りるのか小川町駅淡路町駅のほうが実は便利なのか、検討すべきだよなあ、と思ったことがあったな、ということを思い出した。かつて勤めていた会社が秋葉原にあり、昼食のときに御茶ノ水・神保町方面まで出ていくこともあった。それはもう10年くらい前の話だが、今でもどこか親しみを感じるエリアだ。

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初めてのTRANS BOOKS。ひさしぶりにアートっぽい雰囲気を全身で浴びて(こんな言い方をしては怒られてしまうかも知れませんが…)、なんか今はこういう気分じゃないな〜と思った。単に疲労がたまっていただけかも知れない。疲れているときに美術を楽しむのはむずかしい、つい最近、あいちトリエンナーレで学んだはずのことなのに。

知識がないと美術は楽しめません、というような松下先生のツイートが少し前に炎上しまくっていたけれど、会場について展示作品を前にしたぼくは、本当にその通りだと思った。メディアアートは、美術の中でもっともそういった前提を求められるものだと思う。ぼくには全然ない。

例えば、今日の短歌なんてまさにそうだし、最近だとクロスステッチも含まれるかも知れない、それから音楽やゲームやアニメでも文学でもなんでも、ぼくはいろんなことに興味を持って手を出してみるのに躊躇しない性格だけれど、反面、ひとつのところにとどまって追求することができない。こういうやり方だと、たぶん、そこで今まさに勃興しつつある新しい何かをいち早く見つけて、それがこれまでの勢力図を一気に塗り替える、というような劇的な瞬間には立ち会えないのだろうな、などと、何がしたいのかぼくにはわからなかった作品の説明を読みながら、その時は考えていた。しかし、例えば、毎週ジャンプを買っていて、第1話から『鬼滅の刃』を読んでいます、というのはそういうことかも知れない。羨望も絶望もほどほどに、じぶんの持ちものをきちんと確認しようね、という話。

iimioさんにosicomagazine vol.2をお買い上げいただいたり、tadahiと爪の話をしたり、栗田さんと数年ぶりに会ったりして、そういうのは楽しかった。いくつか惹かれる本はあったけど、明日の文フリでの散財に備え少しだけ買って出る。

秋葉原駅まで歩いて帰ることにする。このあたりで働いていた頃には行列がすごくて一度も入らなかったつじ田の前を通過。雨の土曜の夜だからか、店外の待機列はふたり。これは天が我に与えたもうたチャンス! つけ麺。おいしいが、埼玉のラーメン・つけ麺屋も負けてないぜ、みたいな気持ちになる。

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ごちそうさまでした。

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さのかずやさんのツイートしていた本がおもしろそうだったので秋葉原アトレの書店に立ち寄るが、勝手のわからない本屋で探すのを急に面倒に感じて諦めて電車に乗り込む。大宮で下車、高島屋の7階にある、行きつけのジュンク堂書店で、別ルートで気になっていた坂口恭平『まとまらない人』とあわせ購入。

21世紀の楕円幻想論 その日暮らしの哲学

21世紀の楕円幻想論 その日暮らしの哲学

なぜなら、ぼくもまた、「まとまらない人」だなと自分のことを思うので…。

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*1:音楽、というのはざっくりすぎる気もするけど…