ラーメンと運命
つらいとき、楽しいとき、悲しいとき、うれしいとき、泣きたいとき…。ふと振り返ってみると、いつだって私の人生はラーメンとともにあった。日本中のたくさんの街で今この瞬間も新しいラーメンが産声をあげ、誰かに食べられるのを待っている。それは希望でもある。こんなに素敵なことはない。
2016年は「外でラーメンを食べるのは1ヶ月につき3回まで」というルールを設定した。そうすると、自然と選択が慎重なものになってくる。後悔はしたくないから、事前に念入りに調べるようになる。そうやって食べたラーメンはもちろんおいしい。ありがとう集合知。ありがとう、偉大なる先人たち。
しかし運命というものは基本的にいつも無常で、そうやって調べたラーメン屋が行ったその日に限って臨時休業だったりする。神は死んだ。もともとそのラーメン屋だけが目的だったから、他に寄るべき場所もない。このままでは電車賃を支払って散歩をしに来ただけのおじさんになってしまう。肩を落としながら駅に戻る道中、目的の店とは別のラーメン屋を発見した。
ラーメンで空いた心の穴は、ラーメンでしか埋めることができない。我が人生で得た、数少ない真理のひとつ。しかし、今の私には前述の「1ヶ月に3回まで」ルールがある。貴重な1回を、名も知らぬラーメン屋で消費してしまってよいのか。店の前で逡巡したのち、意を決して入店した。
都築響一『圏外編集者』に、自分の直感に頼らず食べログなどを参考にすることを痛烈に批判する一節があったことを思い出す。菊地成孔のブログも印象に残っていた。そういう言葉が引っかかっているというのは、どこかで最近の自分の振る舞いに違和感があったのだろう。
一番安くて評価の高い店を検索するのは、非常に時間をかけて行われる、集団的な自殺だ」というTシャツを作ろうと思っています。 - naruyoshi kikuchi INTERNET TROISIEME
事前の情報収集というのは、ままならない運命をうまくやり過ごすために人類が手にした有効な方策である。しかしそれは、自分が受けるダメージを最小化する行為でしかない。今の私たちに必要なのは、運命に中指を突き立てること。生を自分たちの側にもう一度引き寄せること。つまり…目の前のラーメン屋に入ること。
まだ見ぬすばらしいラーメンが、どこかで、食べられるのを待っている。「誰に」だって?そんなの決まってるじゃないか、もちろん「君に」だ。だからまずは一歩、踏み出そう。すべてはそこから始まるんだ。
- 作者: 都築響一
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